広島に見るスタジアム活用の発想の乏しさ 行政と市民の両方で発想の転換を
2016/06/13
この週末で今年のJリーグが終了ということもあり、優勝争いや昇格・降格に関する話題も多かったのですが、その中で湧き上がってきたのが広島の新スタジアム建設問題でした。
「サンフレッチェは2位でいい」。失言に隠された、広島市長が新スタジアムを建設したくない理由 | フットボールチャンネル
スタジアム活用の発想に欠ける行政
「2位になればスタジアム建設について検討する時間ができる」と、公式には弁明している広島市長ですが、本音としては“スタジアム建設にGOは出せない”ということでしょう。選挙も絡んでくるとなると、市の財政に大きく影響が出るに違いないスタジアム建設など考えたくないのが実情ということだと思います。
私も以前から主張していますが、スタジアムというのは活用の仕方次第で大きなビジネスや経済圏を構築できる場所なのです。もちろん建設にはそれなりの費用がかかりますが、それ以上に周辺の経済が活性化される可能性も大いに秘めている。それが広島のような都市部の中心に近ければ尚更、ビジネスチャンスも大きくなるというものなのですが、どうやらその発想が行政側に欠けているようですね。
日本におけるスタジアムというのは、これまではいわゆる“箱物”でしかなかった。競技を行う場所として以上には考えられていなく、運動公園など広大な土地を利用するスタジアムでも商業的な色合いにはほど遠い。観客動員などの効率ばかりを優先し、施設としては中途半端な設計になっているところも多く、スタジアムをビジネスの場所として捉えるのは難しい、というのが現状でしょう。
箱物ではスタジアムを消費するだけ 行政と一体になって活用の方向性を探るべき
ただこれでは、スタジアムを使用するプロスポーツクラブにとっても、管理をする行政側にとっても、スタジアムをただ消費していくだけにしかならないのです。クラブは年間の使用料を行政に支払い、行政はその料金を元に管理はするものの、それ以上の活用はしない。金を使うが生み出しはしない、一体何のために税金を使っているのか分からない施設、というのが行政側にとっても認識としてあるかもしれません。
ただ、このスタジアムを箱物ではなく商業施設として考えられるのなら、クラブにとっても行政にとっても利益を生み出す場所として有効利用できるはずなんですよね。それを目指しているのがガンバ大阪の新スタジアム構想であり、ガイナーレ鳥取のYAJINスタジアムもこの理想に近いものであると思います。ヨーロッパやアメリカのスタジアムを見れば、観光にも商業にも有効利用できる場であるのは間違いない。広島市の財政は不勉強にして存じ上げませんが、駅ビルなどの商業施設と同じように考えれば、新スタジアム建設は非常に価値ある事業なのではないかと思います。
とはいえ、課題を抱えているのは行政側だけではないとも同時に感じています。今回の広島市長の失言で批判をする人も多くいるとは思いますが、民間企業や市民の立場から、スタジアムの有効活用の可能性を示すことはできているのか。「スタジアムは箱物」という考えに縛られているのは行政だけでなく市民もそうではないか。こうしたことも考えなければならないのではないでしょうか。
折しも昨日のJ1最終節でサンフレッチェ広島の2連覇が決まり、広島市長の立場としては追い詰められることになります。これはスタジアム建設の推進派にとっては大きな機運となりますが、スタジアムを新たに作ることでどんな経済効果が生み出せるのか、市民の側から行政に示す必要はあると思います。
多くの自治体の財政がひっ迫し、もはやこれまでの箱物としてのインフラは求められていない。こうした施設は行政が一方的に与えるものでもない。プロ野球の楽天や日本ハムがやっているように、球団と市民が一体になって球場運営をしているケースも国内で出てきている。それならば、行政にも市民にもクラブにも利益のあるスタジアムの活用の方向性を探っていくべきでしょう。
広島の新スタジアムについては、とかく市長の発言が取り上げられがちですが、スポーツビジネスの“場”を人々が考える契機になればと思います。