新時代のスポーツメディアは誰のものか?
2016/06/14
記事を読んだのが年末でちょっと前になってしまうのですが、これは面白い動きだなあと思うものがあったので紹介しようと思います。サッカーのイタリア・セリエA、ASローマが公式Webサイトをリニューアルしたという話です。
日本のクラブの公式サイトはファンが楽しむための設計になっていない
記事にもありますが、このメディアを作った過程が本当に画期的ですね。記事にはクラウドソーシングで作ったサイトとありますが、ファンが作ったメディアと言い換えても言い過ぎではないと思います。同じことを日本の2ちゃんねるでやったら失敗する可能性が高いと思いますが、これだけファンの声を採り入れて作り上げるというのは本当に凄い。
私も以前の職場で、Jリーグクラブの公式サイト運営に携わっていましたが、その経験から見ると日本のクラブの公式サイトはファンのための作りにはあまりなっていないというのが実情なんですよね。分かりやすく言うと、クラブがチケットをファンに売るのが主目的の作りになっている訳です。もちろん観戦に関連することなどファンのための情報も載せていますが、最大の目的はサイトを見たユーザーをスタジアムに送り込むことです。
これは言い換えれば、クラブはWebサイトでのユーザー体験を用意できていないということ。選手が最大の資産で試合が最高の見世物、という考え方は以前からあると思いますが、既に一般ユーザーにも情報を選別する眼が備わってきているため、そうしたところでファンを呼び込むのも難しくなってきている。少し前にもユーザー体験について書きましたが、「面白い」と思ってもらわなければスタジアムでもWebサイトでもリピーターにはなってもらえない。
もう既に、選手や試合というコンテンツの力だけを頼りにマーケティングをしていける時代ではなく、ファンがそのコンテンツに触れていかに楽しんでもらえるか、という設計をしていかないといけなくなってきています。ローマが公式サイトで“国内外のサポーターが楽しめるトラベルページを開設した”というのも偶然ではなく、ファンが作ったからこそファンが楽しむための、従来公式サイトにはなかったページが出来上がったのでしょう。
ローマの事例から何を学ぶべきか?
Jリーグを引き合いに出すと、セレッソ大阪やジュビロ磐田がファン向けのサイトやコンテンツを用意しているというのはありますが、これは既にファンになっている人へ視点が向いている。ファンのロイヤリティを高めてリピーターになってもらう施策として機能していると思いますが、スタジアムと合わせてのユーザー体験の設計になっているかというとちょっと物足りないところがあるかもしれません。
「Webサイトでリピーターにしてスタジアムに来てもらう」というのは、やはりクラブの経済性などから合理的な考え方です。ただ、その考えのベクトルの中身を以前のものから少し変える必要があって、Webサイトとスタジアムとさらにその周辺で合わせてファンを獲得していくという考え方が必要なように思います。
今回はJリーグを例として出していますが、ホームタウンとの関係が切っても切れないプロクラブでは大事な考え方になります。スタジアムとその周辺が盛り上がってくれば地域経済にも一役買う可能性もある。そうすることでクラブは地域にとって欠かせない存在となり、より強固な関係が築き上げられていくということにもなる。
ローマの事例から日本のクラブが学ぶべきは、クラウドソーシングでサイトを作ったとか手法の部分ではなく、ファンがスタジアムとその周辺とを合わせて楽しめるような設計にした、ということではないでしょうか。
スポーツの新しい時代において、メディアは一体誰のものなのか。Webサイトとスタジアムとを分けて考えるのではなく、Webもスタジアムも地域も巻き込んだ設計にした、ファンのためのWebサイトというのはこれから一つの方向性になるのではないかと思います。