アスリートのメディア所持を考える (2)アスリートの素顔とストーリーを伝える
2014/02/20
前回から1ヶ月ほど経ってしまいましたが、2回目を書きます。今回はアスリートがメディアを持つことの意味として、その素顔とストーリーを伝えることについて。
前回は、インターネットメディアの進化により、一個人が主体的にメディアをコントロールできる時代になってきたとお話しました。また、先週の記事では、プロスポーツクラブにはクラブだけが配信できるコンテンツが眠っており、YouTubeなどを使うことでそのコンテンツを有効利用できる、ということを書きました。
こうした状況は、アスリート個人にとっても同じことが言えるんですよね。アスリートが自分自身のメディアを持ち、そこで自分だけが利用できるコンテンツを配信する、ということが可能になっている。実際に、1998年に中田英寿氏が「nakata.net」という個人のオフィシャルサイトを持って以降、有名アスリートが個人の公式メディアを持つことも珍しくなくなりました。要因は様々にあると思いますが、やはりインターネットの普及と、アスリート自身がコントロールできる部分が大きい、というのが理由のひとつだと思います。
中田英寿氏の公式メディアである、「nakata.net」。現役引退から7年が経つ今でも、自身の活動を伝えるWebマガジンのようなサイトとなって配信されている。
中田英寿氏の素顔とストーリーを伝える公式メディア「nakata.net」
なぜ中田英寿が自分のメディアを持とうと思ったのか。その最大の理由は、マスメディアによって自分の声や考え方が曲解して伝えられる、ということでした。メディアとの関係も冷え切り、曲解で済む程度であればまだかわいいもので、氏自身が命の危険を感じるような事態まで起きたといいます。それならばと、自身の声を最も早く、正確に伝えられる場所として立ち上げられたのが前述の「nakata.net」だったというわけです。
現役時代、この「nakata.net」では中田氏からのメールという形式で、自身の考え方がありのまま伝えられていました。それは試合や練習に対する心境であったり、プライベートでの趣味に関することであったりと多岐に渡る内容で、間違いなく彼自身の“素顔”が書かれていました。シドニー五輪でのPK失敗や、移籍にまつわる話、現役引退を決めた際の苦悩なども語られ、中田氏自身が持つ“ストーリー”も余すところなく伝えられていたように思います。
マスメディアの報道によって誤解されることも多かった中田氏ですが、その支持者が現役時代も今も非常に多いのも事実。なぜ彼が、これだけ多くのファンを獲得できてきたのかと言えば、「nakata.net」の果たした役割が大きかったのではないでしょうか。
人というのは、飾られた姿よりも、苦悩や葛藤なども織り交ぜて語られるありのままの姿の方に惹かれるところがあるように思います。それを中田氏自身は語り、マスメディアによって作られた虚像ではない、実像に近い中田氏に惹かれた人々がファンになっていった。それ以外にも、所属マネジメント会社であるサニーサイドアップによる、ブランディング戦略なども功を奏していたと思いますが、公式メディアがもたらしたものも非常に大きかった。それが実際のところではないでしょうか。
素顔とストーリーを伝え、ファンを増やす。それが自身やクラブに還元される
個人やアスリートが自分のメディアを持てる時代において、彼らが伝えるべきこととは何か。それは中田氏が伝えてきたのと同じように、自身の“素顔”と“ストーリー”ではないかと思います。表現の方法は様々にありますし、場所も様々ですが、素顔とストーリーを伝えていくことによって実像が理解される。実像が理解されれば身近な存在と認識され、ファンが増えていく。
そして、中田氏がそうであるように、実像を知るファンというのは年月が経っても離れていかない。アスリートがどこでプレーをしても、現役引退をしても、ファンがファンであり続けるという可能性が大きくなっていくのです。固定のファンが増えれば、アスリートを支える土壌が広がり、アスリート自身の活動の源泉になっていく。それは所属するプロスポーツクラブや地域にも還元されていくものになっていきます。
これはこの時代の、アスリートが自分のメディアを持つ意味の一つであると思います。小規模でも、名も無いような選手であっても、今なら簡単にメディアを持つことができる。メディアを持つことで広い範囲に自分の素顔を知ってもらい、ファンを増やし、自身の活動やキャリアの源泉としていく。土壌をつくり、アスリートの価値を上げていくツールとして、インターネットメディアというのは活用すべきだと思います。