“一所”懸命ではなく スポーツ界もキャリア選択の時代へ
2016/06/13
先月、女子サッカーの川澄選手が日米でのデュアル・キャリアを実現しようとしている、というエントリーを書きましたが、最近もいくつかの記事を読んで、スポーツ選手のキャリアについて考えることがありました。
“ライトポジション”を探すために。日本球界の「移籍観」を一新せよ。 | Number Web
キャリア構想も新時代へ。海外移籍、各選手の“選択”。 ~川澄と鮫島、近賀と大野の挑戦~ | Number Web
移籍制度の影響から同じ球団に長い間所属することが比較的多いと思われるプロ野球界であったり、女性アスリート界のことが書かれているというのが、いずれも示唆的ですね。特に、アスリートジャーナルの記事は格闘家の青木真也選手が、男性の目線から女性アスリートについて書いているというのが興味深いです。
日本社会の変化とともに、スポーツ界もキャリアを選べる時代へ
これはスポーツ界というより日本社会全体に言えることだと思うのですが、個人個人が自分の望むようにキャリアを選ぶことができる時代になってきています。例えば起業であったり、例えばフリーランスになることであったり。私も転職を一度経験していますが、キャリア実現のために転職をする人も非常に多くなってきていますね。
実際に私の周囲にも、転職を経験した方や、起業家やフリーランスとして活躍する方が大勢いらっしゃいます。そして、自分らしい人生を歩むためにその道を選択している方が非常に多い。これはスポーツ界でも同じことが起こり始めているように感じます。
おそらくスポーツ界全体に影響を与えているのは、やはりサッカーやプロ野球といったメジャー競技でしょう。欧州トップレベルのリーグやMLBに舞台を移して活躍する選手が増えた。海外は文化として日本よりも移動の自由が利くところがあり、複数のクラブや球団を渡り歩く選手も数多くいます。
本田圭佑選手のように人生のマイルストーンをきちんと捉えて、その実現に向けて歩みを進める選手も現れた。あるいは日本の高校や大学を卒業して、そのまま海を渡る選手も出てきている。かつてないほど働く場を自由に選べるようになってきている時代に、彼らが軽やかにトップレベルの舞台を渡り歩く姿が与える影響というのは本当に計り知れません。
女性アスリートのキャリアにも変化 目線は異性から同性へ
あるいは、青木選手が書くように、結婚や出産を経験したところでキャリアをストップせず、カムバックする女性アスリートも現れるようになってきました。日本では、「ママでも金」などの名言を残した柔道の谷亮子氏や、出産後にソチ五輪を目指した安藤美姫氏が有名ですね。競技生活とライフイベントを区別せず、両立できるものとして捉えることができるのも、この時代なのだと思います。
例えば10年前、あるいは数年前でも、女性アスリートが人気の対象になるのは男性というケースが多かった。競技面よりも「美女」などのセクシュアルな面ばかりが前面に出されることが非常に多くありました。それが話題先行になってしまうと、競技で結果を残せなくなってしまうとさっさと“お払い箱”のような扱いをする。競技面を最初放っておいたのはメディア側なのに、そうした結果を後から叩く文化というのは本当に貧しいと思います。
それでも、女子サッカー日本代表が2011年にワールドカップで優勝した頃からでしょうか。同性から憧れを持たれる女性アスリートが増えてきたように思います。サッカーで言えば澤穂稀選手、バレーボールで言えば竹下佳江氏がこの例にあたるでしょうか。おそらくそれまでは、結婚などを機に競技をやめなければいけないと考える人が多かったのに対して、彼女たちのように競技生活を極めるという選択肢も示されたのでしょう。
スポーツは観るものにとっては娯楽ですが、競技者からすればそれは戦いの場であり、自分たちを表現する“社会”なんですよね。日本社会が変わりつつあるように、スポーツ界も変わろうとしている。移籍に対する感覚であったり、どのようにキャリアを実現していくかという考えであったり。トップレベルの選手たちがそれを教えてくれているように思います。
以前は一球団で競技人生を全うするのが美と考えられていましたが、今はそれは選択肢の一つ。結婚・出産でアスリート生活をやめるかどうかも選択できる。スポーツ界でも、自分の生き様を選べる可能性が大きくなっている。良い意味で“一所”懸命の時代ではなくなってきているのでしょう。
これからはスポーツの新時代。選手をはじめとして幸せなキャリアを選べる時代になることを願います。