オリンピック・リヨンが目指すコネクテッド・スタジアム
2016/06/14
最近スタジアムでのユーザー体験について書くことが多いですが、前回に引き続いてその話です。サッカーのフランス・リーグ1(1部リーグ)のオリンピック・リヨンが、新スタジアムでUber(スマートフォンのタクシー配車サービス)と提携したとのことです。
リヨンの「欧州で最もコネクテッドなスタジアム」
Uberの件もそうなのですが、この記事中で目を惹くのは「欧州で最もコネクテッドなスタジアム」というところですね。既にスタジアム専用のスマートフォンアプリがあって、それをつかって飲食物やグッズを注文できる、というのは非常に進んだ取り組みだなあと感心するばかりです。フランスは今年EURO(サッカーのヨーロッパ選手権)が開催されるということもあってのことですが、この分野で最も先進的なアメリカに負けず劣らずスタジアムが進化している印象ですね。
アプリの導入はスタジアムに訪れるファンが楽しめることに主眼が置かれていると考えられ、アプリを使うことで様々な利点があるんですよね。例えばメールアドレスやFacebookアカウントを使って会員システムにログインできるようにする。アプリとそのアカウントにはファンの来場回数や購入履歴が残るので、ユーザーの嗜好のようなものがどんどん可視化されていく。その嗜好のデータを使って後々アプリやスタジアムの側からレコメンドもできるようになっていく。
こうしたファンとスタジアムの双方向性の動きというのは、データが蓄積されていけばいくほどいい。アプリのレコメンドも精度が高まるし、ファンも新しい楽しみを見つけやすくなる。そしてこの施策というのはリピーターになることで後々効いてくるので、スタジアムからファンを離さないということにもつながってくる訳ですね。
「コネクテッド」というのは、“インターネットを通じて様々なものがつながる”という意味合いですが、ファンとスタジアムがアプリを通してよりコネクトされていく、その仕組みとも考えられます。リヨンが目指しているのはそうしたところも意味が込められているのではないかと思います。本当によくできた取り組みですね。
Uberがスタジアムからのファンの動線を変える?
Uberについても、これはスタジアムからの帰り道のユーザー体験を劇的に改善させるかもしれません。日本のスタジアムは駅から遠いことが多く、微妙な距離でバスが出ていないとか、シャトルバスがあっても本数が少なくて帰るのに時間がかかるとか、そういうことがままあります。駅まで歩いたら歩いたで、何千人何万人という人が同じ駅に向かって歩くのが大変だとか。Uberを使ってスタジアムに配車が出来ると、そうした煩わしさからも解放されるんですよね。
日本では法令が整わず一般ドライバーの配車ができないとか、フランスでもフランスUberのCEOが逮捕されるなどの問題はあるのですが、スタジアムと最寄り駅のファンの動線を変えられるかもしれない。ファンがスタジアムから帰るところまで、スタジアム側がより多くの世話を見ることができますし、ファンには新しい選択肢が提示される。都市部のタクシーが多いところでないと機能しないかもしれませんが、法規制さえしっかり整えば、Uberは各スタジアムでの利用を考えてもいいかもしれません。
リヨンがUberとの提携を選択した理由としては、こうした背景もあるのではないかなと思っています。コネクテッドなスタジアムを目指すにあたって、観戦中やその前後の快適さを考えた結果として、スタジアムに専用エリアまで作って配車サービスを使うことにしたのではないかと。
海外でやっているから日本もうまくいくとか、日本でも有用だろうということではもちろんないですが、こうした取り組みを見て検討してみるのは学びの価値有りではないかと思います。日本の文化やデジタルの事情を鑑みて、日本やそのスタジアムがある土地らしく、スタジアムでの体験を変えられるところが現れてくるといいなと思います。